事業成果物名

2010年度 低炭素社会における交通体系に関する研究報告書

団体名

事業成果物概要

1. 業務の目的
本業務の目的は、世界の交通からのCO2排出量を大幅に削減するために必要な政策や支援策について提言を行うことにある。そのために、交通からのCO2排出削減に資する革新的技術の開発や移転、そのための資金メカニズムの構築、公共交通機関および海運へのモーダルシフトの可能性等について検討、予測を行う。
2.業務活動の項目
本年度の業務は、これまでの研究成果を用いた分析と、その成果を国際的に発表することである。そこで、本研究で行ったグローバル研究と地域研究の結果を対比し、交通の地域差と、地域を超えた共通項についての分析を中心に研究の展開を試みた。
本年度の業務項目は次のとおり。
①研究成果のまとめ(削減シナリオの整理、モデルの修正、IEAモデルへのフィードバック等)
②成果物の出版
③国際シンポジウムの開催、最終報告
④COP16でのサイドイベントの開催
⑤アジア地域、将来技術についての追加的研究
3.業務の内容
ここでは、報告書にまとめた各業務の内容と、開催した会議、セッション等について要約して紹介する。
(1)研究結果(報告書第2章)
本研究で行った1つのグローバル研究と、5つの地域研究の結果を比較し、A「回避」、S「転換」、I「改善」の3つの区分を用いて政策を分類、さらに将来の交通像を先進国では「Reduce&Replace」と「Replace」、途上国では「Prevent&Buy Cleaner」と「Buy Cleaner」の4つに区分し、将来の交通像の分類を行った。
(2)途上国支援(報告書第3章)
既存の支援策であるCDMに関する最新情報、2010年12月のカンクン合意によるNAMAや緑の気候基金についての整理を行い、その後、本研究を進める過程で議論された途上国支援の課題を、ガバナンス、技術、資金の3つの観点から整理し、考えられる対策について説明を行った。
(3)研究手法(報告書第4章、第5章)
将来の社会像、交通像を構築するための支援ツールとして、前者に対しては10の要素をベースとした社会像の構築手法を、後者に対しては要素間の関係性に着目して交通への影響を導き出す手法を構築した。また上記手法で導き出した交通像をベースに、設定した削減目標に達するための政策選択の手法を構築した。
(4)政策提言(報告書第6章)
本プロジェクトの最終成果を、最終的には以下の2つの提言に絞り込んだ。本内容は、最終報告会でも発表された。
①長期的視点で将来社会のビジョンを持つ必要がある。
②途上国での削減に対し、先進国がこれまで以上に支援する必要がある。
(5)国際会議、セミナー、セッション
本年度実施した国際会議、セミナーを以下に記載する。
①ベター・エア・クオリティ(BAQ)2010での特別セッションの開催
②第16回国連気候変動枠組条約締約国会議のサイドイベント
③米国交通運輸研究会議(Transportation Research Board:TRB)でワークショップの開催
④デリー持続可能な開発首脳会議における特別セッションの開催
⑤最終報告会の開催
2011年2月に東京にて最終報告会を開催した。ここでは、2007年のノーベル平和賞を受賞した気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のパチャウリ議長と、オックスフォード大のバックキャスティングの権威であるバニスター教授による基調講演に続き、研究報告、さらにパネルディスカッションを開催した。会には、国土交通副大臣、国土交通審議官、また交通事業者の役員の方々にも参加戴いた。なお、発表者、パネリストは以下となる。
挨拶・基調講演・羽生次郎(運輸政策研究機構)・R・K・パチャウリ(IPCC/TERI)
・D・バニスター(オックスフォード大学)
発表者:・松岡巌(運輸政策研究機構)・L・シッパー(UCB)
パネリスト:・F・クリスト(OECD:モデレータ)・R・K・パチャウリ(IPCC/TERI)
・D・バニスター(オックスフォード大学)・西岡秀三(国立環境研究所)
・H・ダルクマン(TRL)・ S・プンテ(CAI)・稲田恭輔(国際協力機構)・田中由紀(当機構) 
4.事業の成果、達成状況
本年度は3年計画の最終年度である。2011年3月に発生した東日本大地震の影響を受け、1ヶ月間の延長を行ったものの、最終的には年度当初に掲げた目標を達成することができた。具体的成果は、以下の通りである:
① 研究成果のまとめ(事業内容1):
各地域研究とグローバル研究の成果を対比させるため、各研究成果を同じフォーマットに落とし込んだファクトシートを構築した。対比の結果浮き彫りとなった共通項については、上述したASIの3つの区分を用いて政策を、またReduce、Replace、Prevent、Buy Cleanerの4つを組み合わせ、将来の交通像の分類を試みた。共通の政策としては、ITの活用、高速鉄道、効率的な物流システム、公共交通の更なる利用、小型で高効率の自動車の展開、人々の意識と行動の変革、の6つを抜き出した。最終的には、これらの分析から、2つの政策提言(長期的視点の重要性、先進国支援の重要性)にまで絞り込んだ。
国際エネルギー機関のモデルへのフィードバックについては、特に都市・都市以外の交通への区分について報告した。同様に、我々が構築したモデル(STEP)については、その操作性とデフォルトの政策パッケージを見直し、マニュアルを作成した。
なお、この我々が構築した方法論は、フランスの国立研究所であるINRETS(交通安全環境研究所)の研究者による、研究手法に関する研究の中でも取り上げられた。
② 成果物の出版について(事業内容2):
本年度の研究に留まらず、この3年間で構築した研究手法の詳細とケーススタディで用いた条件と結果を付け加えることで、本研究プロジェクト全体の報告書として、本年度の報告書を作成した。また、海外向けの情報発信に関しては、成果の一部を電子化し、広く世界に発信することとした。
③ 国際的なイベントにおける発表について(事業内容3):
前章に記載したため、ここでは割愛する。
④ アジア地域における研究他(事業内容4):アジアの研究者らと意見交換を行ってきた結果、特にデータ収集が困難であるという点、またバックキャスティング手法についての知識が少ないことが、改めて明らかとなった。本年度は、最終報告会において中南米やアジアの交通に関しての報告を行い、今回の報告の中に、パラ・トランジットに焦点を当てた途上国特有のシナリオの可能性を記載した。
また、将来技術、WTW(井戸元から車輪まで:バイオ燃料に有利)とTTW(タンクから車輪まで:電気に有利)という2つの視点をより明確に区分し、研究内容を整理した。その結果、同じシナリオでもWTWでは削減効果が若干抑制される可能性があることも明らかとなった。この視点差は、2011年3月の東日本大地震以降問題視されている原子力行政にも大きく関係する成果となったと考えている。

助成機関

事業成果物種類

報告書

事業成果物

事業成果物名

2010年度 低炭素社会における交通体系に関する研究報告書

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