事業成果物名

独立型社会福祉士事務所における実習の活性化と費用対価の検討

団体名

事業成果物概要

日本財団研究助成 事業報告1
     
独立型社会福祉士事務所における実習の活性化と費用対価の検討

1 はじめに(問題意識)
 社会福祉士養成は平成20年から新カリキュラムとなり、そこで求められているのは「ソーシャルワーク実践」「ソーシャルワーク理論」を基盤にして実習プログラム作成である。厚生労働省の社会福祉士の実習指定施設は多様でその範囲は広い。その範囲の広い実習施設の中に、日本社会福祉士会の独立型社会福祉士会の申請によって、平成20年から「独立型社会福祉士事務所」が実習指定施設として認定されたのは画期的なことといえる。実習指定施設になっていることは独立型社会福祉士事務所にとっては社会的認知の証明でもあるが、一方では独立型社会福祉士事務所の多様性から(1人事務所からNPO法人まで)、果たしてできるのかという実習受け入れのジレンマやリスクも大きく、できれば受け入れたくないという状況や実態が多く見聞きしている。今回、筆者自身も独立型社会福祉士であることから、実習について、いつかはする時期が来ると考え、準備はしていたが実習環境を整えるのは大変厳しいというのが実態である。日本社会福祉士会では専門職である独立型社会福祉事務所を開設しようとする人の養成研修に関する実習は2日間から3日間と短期間であり、対象は既に社会人であり、経験を蓄積した人たちであり、なんとか実習を受諾している。しかし、社会福祉士養成課程にいる学生の受け入れには課題が多く、二の足を踏んでいたことは否めない。
 この何年かの経緯から実習に関する課題は概ね、3項目を提示したい。第一は個人レベルでは事務所に学生を受け入れる余裕がない、実習費用の対価が低いので事務所運営に支障をきたす。第二は社会福祉士事務所運営(経営者)レベルで、業務の特質から実習形態は基本的に1対1が多く、この間には本来の仕事ができなくなり、現在の実習費用で180時間を提供するのは困難に近い、第三は専門職団体レベルでは指定実習施設としての仕組みづくりがないという点が指摘されている。特に第三については平成21年、日本社会福祉士の実習に関する報告書で意見ということで「指定実習施設になったにもかかわらず、会にそのしくみづくりがない」という強い指摘があった。しかし、筆者は指定実習施設としてのしくみづくりの内容にはまず、独立型社会福祉士事務所自身が行なうべきものがあるという見解である。つまり、独立型社会福祉士事務所は基本的には自ら、起業し、開業したという点から、責任をもって、学生を受け入れる実習プログラムや実習マネジメントを自ら、策定し、実習環境を整備していくことは必須である。しかし、現状をみると独立型社会福祉士事務所は約6割が個人事務所であり、その業務内容も多様であり、実習受け入れを整備していくことは容易いことではない。しかし、実習環境を整えるには個人でできること、専門職団体の支援なども必要ある。以上のことから、この独立型社福祉士の実習施設としての活性化と費用対価についても、現状の問題を整理しつつ、実習を受け入れる体制をつくり上げるにはどのような視点と方法があるかについて実習生を出す大学と複数の事務所で提携をして、指定施設実習を試みることで抱えているさまざまな課題を検討していくことにした。

2 実習における課題の整理 
独立型社会福祉士(ソーシャルワーカー)は日本社会福祉士会の定義では「組織に所属しないでソーシャルワークを実践する社会福祉士」と位置づけられている。厚生労働省福祉人材育成(社会福祉援護局)においては平成20年に認定され、適用は平成21年4月からとなっている。しかし、実習施設として認定されてはいるが、指定実習施設としての実習受け入れをどうしていくのか、専門職団体への取り付けを要する事か否かのことはあいまいな現状がある。実習生を受け入れるには多くのリスクを負うことでもあるが事務所の力量を蓄積していくことにも繋がることであり、なんとか形にできないかという動機からこの課題に取り組むことにした。本研究では独立型社会福祉士事務所の特性である多様性と活かし、かつ、事務所間のネットワーク形成によって、実習受け入れ施設として成立していくようなしくみづくりをすることを提案し、実習に関する課題の解決への道筋を示したいと考えている。

以下の3点の整理を目標に独立型社会福祉士事務所の実習については研究会を発足して試行していくことにした。
(1) 独立型社会福祉士事務所(個人事務所)が実習を受諾していく可能性と意義
(2) 組織に所属しないでソーシャルワークを展開する事務所として専門職団体や大学と連携し、実習環境を整備していく方法の検討。
(3) 大学等で社会福祉士資格をとる学生が開業・起業型のソーシャルワーク実践の経験ができる場を提供することで新しいソーシャルワークの形を示す。

3 独立型社会福祉士事務所におけるソーシャルワーク実習
 独立型社会福祉士事務所におけるソーシャルワーク実習の課題を整理していくためには実態調査と現状の課題を整理する。
(1) 実習施設としての認識。意識に関する実態調査(傾向と実態)、調査対象は独立型社会福祉士事務所
(2) 独立型社会福祉士事務所で実習する学生の実習内容の検証

① 実習の実際をできるだけ、可視化して客観的な評価をしていく。(主体者は学生)
②  可視化に関する注意点は利用者の個人情報や実習関連機関の許可を得て行なう。(場面ごとで確認、同意を得ていく、必要に応じて文書を交わす)
③ 可視化した実習内容を振り返り、検証して、実習プログラム及び実習マネジメントの振り返りを行い、独立型社会福祉士事務所における実習について課題を整理していく。(ここは学生・実習指導者、実習依頼をする学校側教員の忌憚のない討議を行なう)
*ここでいう可視化は実習における記録、やりとりや実習経過とともに変化していく
 独立型社会福祉士へのイメージの変容を学生にインタビューによって実施していく
 ことである。
 
3 独立型社会福祉士事務所の特性と実習する意義
 本研究は本年度、日本財団の助成を受けて行なっているが、財団から学生等が実習する意義はどのような点にあるかという問いに応えた形で整理している。主に次の3点を
提示したい。
(1)独立型社会福祉士事務所の特性
① 基本的に契約行為を元にした関わりおよび相談援助を行なう
② 専門性に基づくアウトリーチ型専門相談および手続き支援を行なう
③ 組織に属さないことにより、ソーシャルアクションへ連動するソーシャルワーク実践が展開できる。
① の契約行為は利用者および家族や集団・組織からの依頼からはじまり、
その内容は多様である。ここで求められるのは契約に関する技術や交渉力である。②の活動の特性は多くは相談に来てもらうのではなく、出向いていく相談援助である場合が多い。この活動形態が特に個人事務所の場合は多く見受けられる。③のソーシャルアクションについては独立型社会福祉士は組織にいる場合と異なり、自分の裁量如何でソーシャルアクションへ連動していく活動がしやすい状況下にある。
(2)独立型社会福祉士事務所で実習する意義
 独立型社会福祉士事務所で学生等が実習する意義は大きくは2つ提示したい。1つはアウトリーチ型のソーシャルワーク実践活動を多様に体験できることにある。アウトリーチ型のソーシャルワーク実践における対象者の特徴は社会福祉的支援だけではなく、バルネラブルな状況にある個人への専門的支援者(ソーシャルワーカー)としての活動が期待される。医療でいえば「かかりつけ医」があるように「かかりつけソーシャルワーカー」としての存在意義であろう。名称としてはホームソーシャルワーカー、ファミリーソーシャルワーカー、フィールドソーシャルワーカー」として活動している人も増えてきている。特にバルネラブルな状況はあらゆる階層に関係なく生じ、また、その生活困難性は多様化しており、継続的な支援が必要としている場合が多いからである。

4 独立型社会福祉士事務所が担うソーシャルワーク実践
独立型社会福祉士が利用者中心の視野と発想で自由な裁量権を行使して契約した利用者に対しては倫理綱領を遵守しつつ、高度な専門性を発揮し、徹底した生活支援を展開できる時代のニーズに応えたソーシャルワーク実践が求められる。支援者の機能としては①固有性②目的性③中立性④裁量性⑤責任制⑥機能性などがあるといわれている。このような視点は実習におけるソーシャルワーク実践の中核機能としてプログラム案に提示していく上で参考になる内容である。これらを踏まえ、今回の実習では次の3つをソーシャルワーク実践として実習を展開していくことにする。

(1) 契約に基づく個別支援
① 実践内容は支援の連続性、専門的な見守り、モニタリング実施、ネットワーク・
② 必要なスキルは契約スキル、見守りネット構築のスキル、支援評価・

(2) 権利擁護の視点と支援

① 実践内容は利用者の権利性の確保、独立性(中立性)、エンパワーエント・
アドボケイト、グループダイナミクス(集団へのアプローチ)・
② 必要なスキルは利用者の主体性の尊重、代弁行為、交渉スキル・

(3) 柔軟性をもった支援
① 実践内容はアウトリーチ、越境性で対応・
② 必要なスキルは利用者ニーズの理解と変化への対応、調整スキル・

5 独立型社会福祉士事務所における実習要件と現状の課題
(1)独立型社会福祉士事務所の指定実習施設の確認
厚生労働省の通知
社援発第1111001号
独立型CSW(H21年4月より適用)
以下の条件を満たす
① 社団法人日本社会福祉士会へ登録している社会福祉士が開設した事務所
② 事務所開設して3年以上の業績を有する
③ 利用者からの相談に応じるために必要な広さを有する区画が設けられている。
④ 他の独立型社会福祉士事務所との連携が確保されているなど、適切な実習指導体制が整っている。
⑤ 事故発生時の対応として損害賠償保険等に加入している。

(2) 現状の課題
① 現状1
(日本独立型CSW委員会)で提示している実習できる要件は独立型社会福祉士の名簿登録者であるが会としての確認のしくみはない。
② 現状2 実習費用の安さ
*独立・開業社会福祉士で実施・独自実施(1500~3000円)実態把握はされていない
*教育実習することと社会貢献が混在していて対価交渉がしにくい?!雰囲気がある。
③ 現状3 受け入れにくい実習(対価以外)
*独立・開業の場合、実習による本業への影響が大きい。
*独立型社会福祉士事務所の実習がソーシャルワーク実習になるという承認を何で示す

(3) 現状に対する取り組みの実際
① 現状1に対して
社会福祉士の相談援助実習を1人事務所で行うのではなく、複数事務所対応できるしくみをつくり、学生等を受け入れていく。
③ 現状2に対して
*対価の標準設定は困難であり、事務所で交渉していくことで獲得していくことから始める。
*教育をボランティア感覚で対応していかない継続的な努力
④  現状3に対して
*提携・共同していく実習事務所の選択
*研究委員会と実習依頼する大学で協議検討をして決定していく。これについて、現段
階では研究会という場で実習内容の検討を重ねている。
⑤  具体的な取り組みとして試行~トライアングル戦略の試み~
*複数事務所対応で提携(相談援助実習場所として機能)共同
*実習する大学との連携・協同(実習生を出す機関)
*専門職団体(研修委員会等)との協同

今回、日本財団の助成を受けて、上記の視点で独立型社会福祉士事務所における実習の活性化と費用対価の検討について、現状の問題や課題を整理しつつ、進めてきたが問題の整理をすることに時間がとられた感がある。しかし、独立型社会福祉士事務所で実習する意義や課題(事業報告2)、実際に独立型社会福祉士事務所を開設している実習に関する意識・実態調査(事業報告3)は今まで行われていない点では、研究の意義はあると考えている。しかし、独立型社会福祉士事務所において180時間、240時間をこなすには個人事務所で可能かどうか、また、複数事務所によって実習する場合の実習評価やスーパーバイズ態勢などの在り方などさらに細かい課題が山積している。これらについては今回の作業をさらに整理していきたいと考える。

助成機関

  • 公益財団法人日本財団

事業成果物種類

報告書

事業成果物

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独立型社会福祉士事務所における実習の活性化と費用対価の検討

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