事業成果物名

2012年度 世界をつなぐ安全・安心な海へ ー海上保安に関する日米協調等の構築に関する調査

団体名

事業成果物概要

1. 調査目的
本調査は、米国の海事セキュリティ政策、特に海上保安分野における国際協力・連携における政策の動向について調査・研究、情報収集・発信等を行い、同分野における日米の海上保安当局間の協調をより一層推進することにより、北太平洋及びアジア地域はもとよりグローバルな視点での海上保安に関する国際協力・連携政策の効果的な推進を図り、もって海事セキュリティの向上に資することを目的としている。

2.調査方法及び項目
(1) 調査方法
海上保安に関する業務、政策に精通した中堅幹部クラスの調査役を当機構在ワシントン研究室に派遣し、同室を拠点として米国沿岸警備隊(以下「USCG」という。)を中心とする関係機関等から情報収集・交換を行った。また、データ検索、文献資料収集・レビュー、海上保安に関する教育・訓練、セキュリティ関連施策の情報収集等、作業の一部は、ワシントン在中の米国民間調査機関であるSFS(Salient Federal Solutions)社及びManelli Selter PLLC社へ委託して行った。
(2)調査項目
本年度の調査項目は次のとおり。
1. USCGにおける国際協力・連携活動
2. USCGの士官教育システム
3. USCGの捜索・救難システム
4. 9.11同時多発テロ以降の海事セキュリティ施策とその評価
5. 国連海洋法条約をめぐるアメリカ議会の対応について
6. USCG最新の勢力再構成計画
7. 日米協調について

3.調査研究の内容
ここでは、報告書にまとめた調査内容を要約して紹介する。
1) USCGにおける国際協力・連携活動
第1部においては、これまでのレポートに引き続きUSCGの活動を中心としたアメリカの国際協力、特に本調査においては、昨年の日米海上保安セミナー(以下「セミナー」という。)でも指摘された、各国の連携等様々なアプローチにより実施されている国際協力や連携活動等による広義のキャパシティビルディングについて調査を実施した。
USCGが実施する国際協調は非常に多岐にわたっている。USCG職員は国際的な知識共有演習や会議に参加し、共同訓練を実施し、技術支援を行い、USCG船艇航空機等を活用し国際支援を行い、国防総省等、米国内の関係省庁と連携して様々な種類の支援を行っている。それらの全てを例示することはできないが、継続的に取り組み、成功している最近の事例を数例紹介した。
また、発展途上国に関するキャパシティビルディングへの取り組みについては、多数の発展途上国は、自国の現状を改善する資源を持っていない又は持つ余裕がないため、これら途上国への支援を継続的に行っている。途上国を支援することは「正しい行動」と評価されている。この活動を通じて援助を受ける国は大いに利益がもたらされるが、他方で、国際的な犯罪や脅威に対する米国自身の国家安全保障を向上させることともなっている。途上国援助を行う米国の意思決定にはこのような要素も含まれている。
2)USCGの士官教育システム
第2部においては、昨年度のセミナーでもその重要性が指摘されているキャパシティビルディングの核とも言える人材育成について、USCGアカデミーにおける教育制度と同校における留学生の受け入れ制度と現状について調査を実施した。USCGの士官になるには、USCGアカデミーを卒業するか、OCS(士官候補生学校)を終了するか、もしくは幾つかあるダイレクトコミッションプログラムの1つを終了するか、複数の方法が存在する。
USCGアカデミーは、5つある連邦各軍事教育機関の1つである。同アカデミーは、コネチカット州ニューロンドンに所在し、その使命は国家に奉仕する品格あるリーダーを育成することである。毎年約300人の高校卒業生が入学し、4年後には理学士の学位を取得し、少尉に任官されて卒業する。USCGアカデミーの学費は無料であり、学生には少額の手当も支給される。卒業生には卒業と同時に5年間の兵役義務が課されている。
その他、アカデミーのカリキュラム、各学科の教育内容、教授陣、学習支援活動、軍事訓練と専門能力の開発、体力養成と運動プログラム、国際士官候補生(留学生)の実態等を詳述した。
3)USCGの捜索・救難システム
第3部においては、日米のみならず各国の海上保安機関の主要任務であり、海上保安機関における国際連携には不可欠である捜索・救難活動(SAR)について、その国際取決めや連携を含めたアメリカのシステムについて調査を実施した。
USCGのSARプログラムの方向性を示す4つの一般指針は次のとおり。
① 海上における人命及び負傷者の発生、財産の喪失及び損害を最小限にする。
② SAR活動における職員リスクを最小限にする。
③ SARの実施において人的物的資源を最大限活用する。
④ 海上SARにおいて世界的なリーダーシップを維持する。
同指針の下、IMOとICAOにより発行されているIAMSAR(国際航空海上捜索救助)マニュアル、同付属書、同USCG追加書に基づいて実際の捜索・救助活動はなされている。更に同指針・付属書・追加書の概要、捜索・救難活動の特定任務の調整官、指揮系統、事案対処救助の手順、教育・訓練システム等を詳述している。
4)9.11同時多発テロ以降の海事セキュリティ施策とその評価
第4部においては、本調査の主要課題である海事セキュリティに関して、9.11事案の発生及びその後の対策開始から約10年が経過した現状において、米国の海事セキュリティに関するこれまでの取り組みとその評価に関する調査を実施した。
2001年9月に発生した米国同時多発テロは、米国に大きな衝撃を与え、米国政府は既存のセキュリティシステムでは不十分であると判断し、大規模なセキュリティ対策を次々に発した。国土安全保障省の設置についてもこの一つである。本項では、テロ発生から約10年が経過し、アメリカが実施した海事セキュリティ対策を概括し、それらの施策に関する評価について紹介した。 次に主な項目を示す。
○9.11後の保安体制の概要
・新たな責務の認識
・対応策改善継続の必要性
・海事セキュリティ体制と機関の法的構成○海事保安システムの現在の評価
・議会の評価
・議会公聴会の評価
・政府監査院GAOによる評価
・民間部門による評価
5)国連海洋法条約をめぐるアメリカ議会の対応について
第5部においては「海の憲法」とも呼ばれ、海洋における国際関係の基礎となり、経済活動や海上保安機関の活動を含めた国際協調・連携活動の基盤である国連海洋法条約について、アメリカがその締約国になっていないことに関して、今年度の米国議会の動きを含め、その背景、考え方について調査を実施した。
また、レーガン政権以降の各大統領による政権の国連海洋法条約に関する検討、対応をまとめ紹介した。
6)USCG最新の勢力再構成計画
第6部においては、USCGの船艇・航空機を初めとする勢力・機材とその代替内容に関する最新の取り組みについて調査を実施した。その中で、勢力再構成計画の概要やUSCG主要プロジェクトによる船艇・航空機、ヘリコプター等の調達や更新、代替等の最新情報を紹介した。 
7)日米協調について
第7部においては、3カ年調査の最終年度を迎え、これまでの調査を通じ、海上保安に関する日米協調において特に日本サイドとして必要な対応についてとりまとめ提言を行った。特に、今後の日米協調を考る上で必要と思われる次の各事項を提言として挙げ、まとめた。
○戦略の必要性
○東南アジア方面に関する協調戦略
○組織間協力の必要性
○日米相互の文化の理解
 
4.事業の成果、達成状況
本調査に当たっては「海上保安に関する国際協力・連携分野での日米協調等の構築に関する調査」を命題として、USCGの様々なキャパシティビルディング手法、留学生制度を含む士官教育、捜索救難施策、海上セキュリティ対策等の調査を実施した。当該調査によって、USCGのキャパシティビルディングを初めとする国際業務に関する戦略の概要を把握するとともに、それぞれの業務システムについて理解を深めることが出来、日米海上保安機関間の協調を模索する上で非常に効果的なものとなった。
さらに、今年度は3カ年計画の事業の最終年度として、報告書において過去3年間における調査活動の総括を行い、日本におけるキャパシティビルディング等に関する戦略の必要性、組織間の協力関係の必要性等を中心とした海上保安に関する国際協力・連携分野における日米協調に向けた提言を盛込むことが出来た。また、3年間の事業を通じて、実際に日米両海上保安機関間における意見交換や交流の機会を設けることが出来、提言のみならず現実の日米協力の一端を担うものとなった。これらにより本事業の目標であった日米両海上保安機関の協力関係の推進を図り、そしてこれら協力関係は、海洋に依存した我が国の安全・安心に寄与していくものと確信する。

報告書名:「世界をつなぐ安全・安心な海へ―海上保安に関する日米協調等の構築に関する調査―」(資料番号240107)
本文:A4版 183頁

報告書目次:
調査研究の目的
第一部 USCGにおける国際協力・連携活動
第1章 USCGの国際協力とキャパシティビ
ルディング
第2章 USCGの一般的国際協力への取組み
第3章 発展途上国に関するキャパシティビルディングへの取組み
第4章 キャパシティビルディングに関して米国が利用している各種支援システム
第二部 USCGの士官教育システム
第1章 USCGアカデミー(沿岸警備隊士官学校)
第2章 幹部候補生学校
第3章 DCO(直接任命士官)プログラム
第三部 USCGの捜索・救難システム
第1章 USCGの方針および方法論
第2章 教育および訓練システム
第3章 SAR分野内の国際協力および支援
第四部 9.11同時多発テロ以降の海事セキュリティ施策とその評価
第1章 9.11後の保安体制の概要
第2章 海事保安システムの現在の評価
第五部 国連海洋法条約をめぐるアメリカ議会の対応について
第六部 USCG最新の勢力再構成計画
第七部 日米協調について
資料編


【担当者名:三盃 晃、和平 好弘】


【本調査は、日本財団の助成金を受けて実施したものである。】

助成機関

事業成果物種類

報告書

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2012年度 世界をつなぐ安全・安心な海へ ー海上保安に関する日米協調等の構築に関する調査報告書ー

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