事業成果物名

2012年度 地球温暖化を踏まえたASEANの長期交通行動計画に関する研究報告書

団体名

事業成果物概要

1. 業務の目的
「低炭素における交通体系に関する研究」の成果から、ASEAN内の経済格差、海で隔たれた地理的条件、無動力交通の高いシェアといった当該地域特有の問題点に対し、より詳細まで考慮した研究が重要であることは明らかである。また、当該地域における交通からのCO2排出量の伸びは著しく、しかし同じく伸びが懸念される中国やインドと異なり、交通政策の長期的展望に欠けている。そこで本事業では、地球温暖化を考慮したASEAN初の長期的な交通政策の提言を行う。ここでは、「ASEAN交通行動計画」の先の、2050年のあるべきASEANの交通について、ASEAN事務局や現地研究者らと共同で調査研究を行うことで、現地の緻密な分析に基づいた長期的な交通政策のビジョンを構築する。
2.業務活動の方法及び項目
本年度の業務は、昨年度構築した、最終成果の1つであるASEANの長期行動計画を導くための方法の共通フレームを用いて、定量評価を行うことにある。
以下に本年度の業務の進め方、各業務の項目を示す。
(1)業務の進め方(委員会)
本年度の業務では、昨年度に引き続き、海外の研究協力機関と一緒に、バックキャスティングとシナリオ構築の2つの評価ツールの構築を目指す方法論チームと、ASEANの交通既存の交通政策や、関連する統計についての研究を行うASEANチームの2つのチーム体制を構築した。また、チームメンバーを中心に構築したステアリング委員会を開催し、お互いの成果に関しての情報共有と、その活用に関してのディスカッションを行った。
(2)業務項目
本年度の業務項目は次のとおり。
① バックキャスティング手法を用いた定量評価
② 研究成果の公表
3.業務の内容
ここでは、報告書にまとめた各業務の内容と、開催した会議、セッション等について要約して紹介する。
(1)概要(報告書第1章:事業内容①)
ここでは、本研究で採用する基礎的な情報についての整理を試みた。具体的には、研究の前提条件となる、温暖化という視点からの交通分野が置かれている現状の把握、ASEANという地理的、政治的に特殊な状況の解説を試みた。続いて、本研究で用いる採用するバックキャスティングという政策選択アプローチと、その前提となる将来の社会・交通像と、そこに至るまでのシナリオを描く手法としてのビジョニングというアプローチについての説明を行っている。
(2)課題(報告書第2章:事業内容①)
ここでは、本年度に行ったビジョニングツールおよびバックキャスティングツールという2つのツール(本年度おこなったツール開発の内容については、(3)、(4)参照)に関する検討の中で発生した、概念的な問題点、未解決の問題点について整理している。ビジョニングツールに関しては将来の社会像とそれに関係する交通像を設定するためのビジョンの構築手法、特にビジョンの設定タイミングに関する課題と、ビジョンを構築する際の社会的要素の関係性についての課題について、バックキャスティングツールについては、バックキャスティングを行う際の最終目標・中間目標の設定に関する課題、ツールで扱う対象である政策の定義およびその区分手法に関する課題、そして行動計画まで導く際の細分化されたバリアについての検討内容についてである。
(3)バックキャスティングツール(報告書第3章:事業内容①)
ここでは、バックキャスティングツールの修正および機能強化を行うための検討を行っている。まず、後述するビジョニングツールとの共通する事項の整理、および連携方法の検討を行った。具体的には、2つのツールの連携を図るために、共通のデータベースを設定、および政策導入効果の重みづけの方法に関する検討である。また、バックキャスティングツールの修正および機能強化として、交通セクターの整理とそれに関連するデータの課題、地域分類の設定に関する修正、道路混雑に伴う移動速度低下の取り扱い方、ASEAN各国のBAUケースの検証等の検討を行うとともに、このツールをWebベースで展開するために必要となるプラットフォームの課題や、インターフェースの機能強化に関しての検討を行っている。
(4)ビジョニングツール(報告書第4章:事業内容①)
ここでは、ビジョニングツールの開発を行うための検討を行った。まず、ビジョニングの概念および社会像を描くための指標(社会的要素)に関する整理を行った。また、将来のビジョンを表現するための3つの軸の設定を行うとともに、将来のビジョンを描くための26の社会的要素を抽出している。これらの社会的要素が、今後いつ頃、どう変化するかをツールの利用者が入力することにより、描かれたビジョンはこの3つの軸のどこに位置づけられるのかを表現するものとしている。一方、描かれた将来ビジョンが政策の導入効果に与える影響に関する検討も行っている。
(5)国際会議、セミナー、セッション(事業内容②)
本年度実施した国際会議、セミナーについて、以下に簡単に記載する。
① 第2回国際会議
2012年9月に、バンコク(タイ)において、第2回目となる国際関係者会議を開催した。この会議は、国際的なステークホルダーミーティングとしての位置付けで開催しており、ASEANの政策担当者に対し、当該プロジェクトの説明を行うこと、また彼らのニーズをこの研究プロジェクトに取り込むことを目的としている。当日は、タイ運輸省・インドネシア運輸省や、国際関係機関らが出席し、タイにおける交通分野における環境政策、国際関係機関のASEAN地域における活動、当研究の研究報告(2つのツールの開発状況、ASEANデータの利用可能性等)が行われた。発表者を以下に示す。
挨拶:
・ 高田陽介(運輸政策研究機構)
・ C・スクマノップ(タイ運輸省)
発表者:
・ C・プラディフェット(タイ運輸省)
・ 松岡巌(運輸政策研究機構)
・ P・エマーソン(英国交通調査研究所)
・ 岡和孝(みずほ情報総研)
・ A・メヒア(クリーン・エア・イニシアチブ)
・ T・トリグ(国際エネルギー機関)
・ R・ハース(ドイツ国際協力公社)
・ M・レグミ(国連アジア太平洋経済社会委員会)
② アジア開発銀行交通フォーラムにおけるワークショップの開催
マニラで開催されたアジア開発銀行主催の交通フォーラムにおいて、本プロジェクトの研究報告を行う場として、ワークショップを開催した。以下に、発表者をまとめて記載する。
挨拶:
・ L・ライト(アジア開発銀行)
・ 高田陽介(運輸政策研究機構)
発表者:
・ H・ファビアン(クリーン・エア・イニシアチブ)
・ 松岡巌(運輸政策研究機構)
・ E・ザスマン(地球環境戦略研究機関)
・ 坂本耕(アジア開発銀行)
・ P・エマーソン(英国交通調査研究所)
・ 岡和孝(みずほ情報総研)
・ A・メヒア(クリーン・エア・イニシアチブ)
・ K・フン(ベトナム交通通信省)
・ D・パリケシット(ガジャマダ大学)
・ R・レヒドール(フィリピン大学)
・ J・ロメロ(地球環境戦略研究機関)
③ インドネシア・ナショナルステークホルダーミーティング
2012年11月に開催された本会議は、本プロジェクトをインドネシア政府の関係者に周知するとともに、関係者の意見を本プロジェクトに反映させること等を目的として開催したものである。以下に、当日の発表者等をまとめて記載する。
開会挨拶・議長:
・ W・アリテナン(インドネシア運輸省)
ファシリテーター:
・ D・パリケシット(ガジャマダ大学)
発表:
・ 松岡巌(運輸政策研究機構)
・ H・ファビアン(クリーン・エア・イニシアチブ)
④ 国際フォーラム「“International Forum on the Long-term Impacts of Low Emissions Transport Policies and Actions in the ASEAN」の開催
2012年12月に、東南アジア最大級の交通と温暖化に関するイベントである、ベター・エアー・クオリティ2012(以下BAQ2012)のプレイベントとして国際フォーラムを開催し、研究成果の公表を行うとともに、各国の政府高官や交通専門家、国際機関関係者らと低炭素交通の実現に向けた課題等についての議論を行った。

⑤ BAQ2012における特別セッション
先述のBAQ2012内において、特別セッションを主催し、研究成果の公表を行った。

⑥ トレーニングセッション「Visioning and Backcasting Tools Training」の開催
このトレーニングセッションは、インドネシア運輸省・インドネシア交通学会の依頼により、インドネシア運輸省の行政官・インドネシア交通学会の若手研究者を対象として開催したものである。参加人数は30名と大変盛況であった。

4.事業の成果、達成状況
本事業は3年計画であり、本年度はその2年度目あたる。以下に、事業計画時に設定した2つの事業内容に沿って、その達成状況について説明を行う。
① バックキャスティング手法を用いた定量評価(事業内容1):
事業内容1については、概ね達成したが、新たな課題も浮上している。2012年12月に開催したベター・エアー・クオリティ2012大会にて、各主要国の専門家による国別の削減政策案を公表した。さらに、2013年3月には、インドネシア交通省にてトレーニングセッションを開催し、30名の行政担当者に3つの削減政策パッケージを構築させた。インドネシア政府は、自国の削減目標に対しての具体的な削減政策案を構築するニーズを持っており、これが最初のたたき台ともいえるものである。これらの結果、幾つかの懸念事項が明らかとなった。まず、幾つかの国では、目標達成する可能性があることがわかったが、逆に全ての政策を導入しても及ばない国があることがわかってきた。これは、ASEANの交通統計やデータが未だ不十分であり、充分な政策がツールで考慮されていないことが1つの原因である。また、目標達成は非現実的だと諦め、目標達成のための政策の組み立てを最初から諦めるケースもあった。興味深いのは、政府の定めている目標値をそのまま削減目標として使っても同じ結果となることであり、前述したインドネシア政府でのトレーニングセッションでも見受けられた。これも、基本的には彼らが政策の実現が可能だ、と認識するだけの情報が不足していることに起因している。これらに対しては、ASEANにおける温暖化対策のリーダー的存在であるインドネシア政府に、より開発に参加して戴くことで、ツールの修正を図り、次年度末までに最終的な削減案を提言する予定である。
② 研究成果の公表(事業内容2):
事業内容2については、計画を上回る成果を出している。9月には、バンコクにて国際会議を開催した。ここには、タイ交通省より運輸交通政策企画局長以下、温暖化担当の行政官が参加した。国際機関からは、国際エネルギー機関のトリグ氏が参加し、東南アジアにおける交通統計の現状についての講演がなされた。11月には、アジア開発銀行からの誘いをうけ、彼らが2年に1度開催している交通フォーラムにて、政策立案のトレーニングセッションを開催した。このフォーラムには、東南アジア諸国の交通関係の行政官だけではなく、交通開発プロジェクトの担当者や温暖化関係の担当者も多数参加している。我々のセッションにも、ドイツ国際協力公社や地球環境戦略研究機関らの参加があった。12月に香港にて開催されたベター・エアー・クオリティ2012大会では、通常のセッションだけでなく、公認のサイドイベント(セッション)も開催した。これらセッションでは、我々のツールを使い、将来の交通からのCO2排出量の削減のために必要な政策(パッケージ)について、各国の専門家が作った将来シナリオと政策パッケージについての発表を行った。さらに、当該手法の先駆者であるシェル社の方法論チームによる基調講演や、アジア開発銀行の交通チームの責任者による講演も行われた。両日、立ち見が出る盛況ぶりであり、日本からは国土交通省の国際統括官が、タイからは運輸省の交通政策計画局副局長が、ラオスからは交通副大臣が参加した。2013年3月には、インドネシア交通省の行政官と、交通学界の研究者ら30人に対して、2日間のトレーニングセッションを開催した。ここでは、実際に行政官に我々が開発したツールを操作してもらい、彼らの政府が掲げる削減目標を使ってケーススタディを行った。このセッションには、インドネシア交通大臣補佐官(元交通事務次官)も参加した。

報告書名:               
地球温暖化を踏まえたASEANの長期交通行動計画に関する研究報告書
本文:A4版 81頁

報告書目次:
第1章 研究概要
1-1 研究背景
第1章 概要
1.1 研究概要
1.2 研究手法

第2章 課題
2.1 ビジョニングツールに関する検討
2.2 バックキャスティングツールに関する検討

第3章 バックキャスティングツール
3.1 序論
3.2 ビジョニングツールとバックキャスティングツールに共通する開発内
3.3 バックキャスティングツールの機能強化
3.4 ビジョニングツールの強化
3.5 今後の展望
3.6 結論
3.7 参考文献

第4章 ビジョニングツール
4.1 はじめに
4.2 ビジョニングツールの開発
4.3 政策データベースの開発
4.4 バックキャスティングツールの改良
4.5 まとめ

【担当者名:髙田陽介、竹下博之】
【本調査は、日本財団の助成金を受けて実施したものである。】

助成機関

事業成果物種類

報告書

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事業成果物名

2012年度 地球温暖化を踏まえたASEANの長期交通行動計画に関する研究報告書

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