事業成果物名 |
2017年度 船舶関係諸基準に関する調査研究
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事業成果物概要 |
事業の概要
a) ガス燃料船・新液化ガス運搬船基準の策定 近年、従来から使用されている重油よりも燃焼時のNOx及びSOxの排出量が少ない低引火点燃料の船舶における使用が国際的に着目されている。この低引火点燃料を使用する船舶を実用化するためには十分な安全性の検討及びそれに基づく国際的安全基準の策定が必要不可欠であるため、第95回海上安全委員会(MSC95)にて、天然ガスを燃料とした船舶の安全基準が採択された。また、現在、天然ガス以外の低引火点燃料を使用する船舶の安全性に関し、貨物運送小委員会(CCC)の会合及びCGでの検討が行われている。 また、MSC96においては、IMOの液化ガス運搬関連規則中で使用が認められる鋼材に、高マンガンオーステナイト鋼を追加ための新規作業計画が提案され、検討が行われている。 以上の背景の下、本調査研究プロジェクトにおいては、低引火点燃料について、昨年度に引き続き、IMOでの議論に我が国の知見を反映すべく、国内関係業界の意見を集約し、CGへの対応を行った。また、高マンガンオーステナイト鋼に関しても、CGへの対応を行ったほか、CCC4へ提案文書を提出する等の対応を行った。 b) 目標指向型復原性基準の策定 船舶設計・建造小委員会(SDC)において、波浪等の影響を考慮した第二世代非損傷時復原性基準の策定のための議論が行われている。同基準の策定にあたって、5つの危険モードについて基準の策定を行うことが合意されている。 同基準の策定のためのCGのコーディネータを日本が継続的に担当しており、本基準を合理的なものとするべく議論をリードしている。 本調査研究プロジェクトでは、我が国意見の反映を図るため、各種基準及びそれらの合格判定基準値策定のための試計算並びに模型実験、加えて第二世代非損傷時復原性基準において基準を満足できない船舶に導入が予定されている運航制限及び操船ガイダンスの技術的検討を調査研究として実施した。また、IMOでの当該事項の審議への貢献及び対応として、非損傷時復原性CGの報告等に係る提案文書の作成を行った。 また、損傷時復原性基準に関し、MSCにおいて、旅客船の同基準の向上について審議が行われていたことから、我が国で建造される旅客船への影響を考慮した合理的な基準とするべく検討した結果を欧米諸国と調整を行い、提案文書としてMSC98へ提出した結果、我が国の提案は採択された。 c) 航海設備近代化に伴う関連基準の検討 ・e-navigation 戦略の実施に伴う関連基準等の検討 IMOでは、航行安全の向上、船内作業及び陸上からの航海支援の効率化等の実現を目指して、IT技術を活用した次世代の航海支援システムの構築・実施に向けた取組を進めている。MSC94では、「e-navigation戦略実施計画」が採択され、5ヵ年でe-navigation実施に伴うSOLAS条約等の作成・見直しが行われる予定となっている。SIPの実施に伴う条約改正等により、新たな設備導入や設計変更等が求められる場合、我が国関連業界にとって、コスト増加や必要以上の規制強化に繋がる恐れがある。 これを踏まえ、本調査研究プロジェクトでは、関連業界の意見を集約し、IMOにおいて、SIPに沿った条約、規則等の見直しの審議に参画し、我が国意見の反映に努めた。また、e-navigation戦略実施計画の主要課題の一つとして挙げられている「船上における航海計器と人間のインターフェース」の改善を目指し、船長・航海士に対してアンケート調査を行い、改善が必要と思われる航海計器及びその原因を特定し、 IMOにおける審議で提案すべき事項を取り纏めた。 ・GMDSSの見直し及び近代化に関する検討 IMOでは、GMDSSの維持及び安全性の向上のため、同システムの見直し・近代化の検討が進められている。本調査研究プロジェクトでは、昨年度に引き続き、IMO等の関連会合における関連審議の動向を的確に把握するとともに、関連議題について包括的に議論し、国内意見の集約・調整を実施した。 ・自動運航船の開発・実装に係る制度の研究 IoTやAI等情報通信技術の急速な進展を背景に、欧州を中心に船舶の自動運航に関する研究が進んでいる。船舶の自立化・自動化は、ヒューマンエラーの防止等、海上における安全性向上や乗船者の作業負担軽減、運航や制御の最適化による効率化等が期待され、将来の海上輸送の在り方を大きく変える可能性がある。他方で、自動運航船の実用に向けて新たに必要となる基準や、既存のIMO条約等関連規則の自動運航船への適用は不明確であり、規制面の検討が必要な状況にある。その中で、MSC96において、我が国を含む複数の国からの提案に基づき、自動運航船に関する規制面での論点整理を新規議題として登録することが決定された。 以上の背景を踏まえ、本調査研究プロジェクトにおいては、IMOにおける自動運航船の議論の本格化に備えるため、規制面での論点整理を実施し、MSC98における対応等を行った。 d) 海事におけるサイバーセキュリティ対策の検討 世界的な情報技術の発達に伴い、船舶、港湾、陸上施設など様々な場面においてサイバーシステムへの接続及び依存が進み、システムデータへの不正アクセス等に起因する航行安全侵害等の様々なリスクが懸念されている。この状況を踏まえ、MSC96において、海事サイバーリスクアセスメントの暫定ガイドラインが合意された。 今後、海事のサイバーセキュリティに関する審議が本格化する中で、我が国の実態に即した形で審議を進めていくため、本調査研究プロジェクトにおいては、IMOにおける審議動向を的確に把握するとともに、海外船級協会等における関連動向の調査及びサイバーセキュリティに関するリスク評価手法の調査を実施した。更に、船舶におけるサイバーセキュリティ対策ガイドラインの骨子の策定及び船内におけるサイバーセキュリティの脅威に関する抽出例の検討も実施した。 e) 船舶の合理的な基準作成のためのデータ活用に関するグローバルストラテジーの検討 近年、海事業界においても、センサー技術、ICT技術の進展等により、船舶の運航時の各種データの収集が現実的となった。 現在、民間レベルにて船舶のIoTデータを収集・活用することにより、船舶の安全性、環境性能及び新たな技術やサービスの創出の推進が盛んに検討されている。 一方、IMOの第116回理事会へIMO事務局長が提出した文書におけるIMOが直面するトレンド、進展及び課題にて、ビッグデータの活用は、船舶運航の安全性及び効率の向上の新たな道筋となり、また意思決定プロセスにおけるよりデータに基づいたアプローチの適用の可能性を生むものであるとされた。 上記の通り、IMOにおいてもデータの活用の重要性が認識されているものの、その方向性や方策についての具体的な議論は未だ行われていない。 世界最大の海事クラスター(海運・造船・舶用機器等)を有する我が国では、各業界が協力し船舶データの商業利用の検討が活発に進められていることから、我が国がIMOの規則開発をリードしていくため、IMOにおけるデータ活用のための検討の推進が有益であると考えられる。 船舶データの規則開発への具体的活用方法の検討及び規則開発に利用可能なデータの収集・分析から得られた知見に基づき、IMOの規則開発におけるデータ活用を促進するためのストラテジーを検討するために本調査研究プロジェクトを立ち上げ、ケーススタディとして、船舶設計の最上流に位置する波浪発現頻度表の、AISデータ及び波浪推算データを使用した見直しに関する調査研究を実施し、データ活用による規則開発の可能性について検証を行った。また定量的なリスク評価に基づく規則作成の枠組みであるGBS-SLAを含め、将来のIMOにおける規則作成のあり方について検討を行った。 f) 船体付着生物管理に関する検討 IMOでは、第62回海洋環境保護委員会(MEPC62)において、船舶の外板等に付着した生物の移動に伴う海洋環境への悪影響を防止するための非義務的ガイドラインが採択された。また、MEPC65において、ガイドラインの実施状況、効果を評価するためのプロセスに関するガイダンスが採択された。同ガイダンスに従ったレビューの結果によっては、ガイドラインの義務化に関する議論が開始される可能性もある。 このため、本調査研究プロジェクトにおいては、上記のIMOガイドラインの実行可能性に関する評価を実施する他、先行して船体付着生物管理の国内規制の検討を行っている海外諸国の動向調査を行った。 g) 船舶からの大気汚染防止のための基準整備 IMOでは、船舶からのNOx及びSOxの更なる排出規制強化のため、海洋汚染防止条約附属書 Ⅵにおいて関連の規定を定めている。同規制は、段階的に強化される仕組みとなっており、SOxに関しては、2020年に一般海域において燃料油中の硫黄分を0.5%以下とすることが必要となる。本規制の統一的な履行を確保するため、IMOの第4回汚染防止・対応小委員会(PPR4)において、不正防止対策の検討が合意された。 この背景を踏まえ、本調査研究プロジェクトにおいては、国内事業者からのヒアリングに基づき、燃料油のサンプリングに関する具体的な手順を含む、上記規制の統一的実施のためのガイドライン案を作成し、PPR5への提案を行った。 また、IMOでは、北極圏の氷雪融解を促進する原因物質と考えられている国際海運から排出されるブラック・カーボンに関しても検討が行われている。 上記検討に対応するため、本調査研究プロジェクトにおいては、IMOでの議論の中で候補に挙がっている計測方法を中心に、舶用ディーゼルエンジンを用いた計測実験等を行ったほか、各国における研究状況の調査を行った。 h) 船舶水中騒音の海洋生物への影響に関する調査研究 生物多様性条約の下に置かれている会議では、船舶等の人為的な騒音が海棲哺乳類等の海洋生物に悪影響を与えていることから対策を講ずべきという意見が出ており、各国に船舶等の人為的な騒音と海棲哺乳類等の海洋生物の関係についての科学的研究の実施が要請されている。また、IMOにおいても、船舶の騒音対策に関する非強制ガイドラインを承認済みであるが、より踏み込んだ対策の必要性を主張している国もあるため、IMOでの議論の動向についても引き続き注意を要する。 これらの会議では、船舶を騒音源の一つとして問題視しており、船舶の騒音対策をすべきとする方向に議論が発展することが懸念される。かかる議論により非合理な規制の策定を予防するためには、船舶の騒音と海棲哺乳類の因果関係などの科学的知見が必要である。 これらの背景から、本調査研究プロジェクトにおいては、海洋生物に対する船舶水中騒音の影響について、定量的かつ科学的なデータを取得し、特に、海洋生物が許容できる騒音レベルを明らかにするための調査研究を2015年度より実施している。今年度は、2016年度に引き続き、小笠原諸島の定期運航船「ははじま丸」から発生する水中騒音の計測・分析に加え、同船の騒音に対するザトウクジラの反応行動の観測を実施し、船舶水中騒音に係る科学的データの取得と解析・定量化を行った。 i) 船舶からの温室効果ガス(GHG)削減基準の策定 2011年のMEPC62において、船舶のCO2排出基準に関する船舶設計(EEDI)、省エネ運航計画(SEEMP)から成る技術的・運航的手法の導入に係るMARPOL条約附属書VIの改正案が採択され、2013年1月に発効した。 EEDI規制値は、我が国の造船・舶用工業の世界トップレベルの優れた省エネ技術をベースに合意されたものであり、我が国の国際競争力強化に資するため、条約の規定通りの段階的規制の的確な実施が不可欠である。同規制は、MARPOL条約の規定に従い、現行の規制値どおりに実施することの可否の判断のため、技術開発状況のレビューを行うこととなっている。また、EEDI規制についてはこれまで我が国が国際的議論を主導してきたところであり、EEDIに関する技術的検討事項についても、引き続き国際的議論を主導することにより、我が国競争力の確保を図ることが必要である。 以上の背景から、本調査研究プロジェクトでは、IMOにおける議論を主導するための対応を行った。具体的には、第71回海洋環境保護委員会(2017年7月)において、我が国から技術開発状況のレビューに関するコレスポンデンス・グループの設置を提案し、承認されたCGのコーディネータに弊会職員が就任した。また、技術開発による船舶のエネルギー効率向上の効果及び費用等を調査し、同CGにその調査結果を報告した。そのほか、EEDIに関する技術的事項として、船舶の最低出力に関するガイドライン案を作成し、MEPC71へ提出した。 j) 各国提案の評価及び日本提案のフォローアップ ・防火 MSC98、SDC5及びSSE5の防火設備関連議題への対応の検討を実施した。また、SSE5より本格的に審議が開始されるRORO旅客船の火災安全要件の見直し作業に対応するため、国内WGを設置し、国内関係者とわが国提案文書の内容及びIMOにおけるわが国対処方針の検討を実施した。 ・救命 MSC98及びSSE5の救命設備関連議題への対応の検討を実施した。 ・船上揚貨装置 SSE5の船上揚貨装置関連議題への対応を実施した。船上揚貨装置の基準策定のためのCGのコーディネータを日本が担当し、CGの結果報告に関する提案文書をSSE5へ提出した。また、SSE5で再設置された船上揚貨装置の基準策定のためのCGのコーディネータに引き続き弊会職員が就任した。 ・係船設備 SDC4で設置された係船設備に関する基準改正のためのCGへの対応、及びSDC5の係船設備関連議題への対応の検討を実施した。また、SDC5で再設置されたCGのコーディネータに日本が就任した。 ・GBS MSC98のGBS適合検証ガイドライン改正関連議題への対応の検討を実施した。 k) セミナーの開催 調査研究の成果及びIMOの動向の公表のため「船舶基準セミナー」を2017年10月16日に東京で開催した。 |
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助成機関 |
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