事業成果物名

2013年度 外出困難者を支援する屋内位置情報サービスの構築事業報告書

団体名

事業成果物概要

特定非営利活動位置情報サービス研究機構(NPO Lisra)は、位置情報サービスに関する研究開発を通した社会貢献を目標に、名古屋大学教授の河口が設立した。名古屋大学では、すでに200万人以上に利用されているスマートホンアプリ「駅.Locky」や「時刻表.Locky」などのサービスを運用した経験を有しており、これらの経験を本NPOに生かしたいと考えている。本NPOでは、特に屋内位置情報に関する研究開発に注目しており、名古屋大学で開発され無線LANを用いた屋内位置推定技術や、加速度センサ等を使ったナビゲーションシステムを活用した、屋内位置情報システムの構築を目指している。

○本事業の当初目標
 本事業では、名古屋大学の技術を用い、障害者や高齢者、妊婦といった異なる状況にあるユーザに特化した形での、屋内位置情報システムの提供を行うことを目標としている。障害の程度や、歩行速度、ユーザの嗜好(禁煙)など、様々な情報に応じた適切な情報提供を行う。世界で利用できるシステムを開発するが、実際には、店舗や建物構造の情報が必要であるため、本事業では、複数の駅や店舗が複雑に存在する名古屋駅を対象とする。名古屋駅で利用できれば、日本中で利用できることが期待できる。実際に、車いす対応のトイレやスロープ、店舗情報や、禁煙情報など、多様な情報収集を行う。また、情報提示用のスマートホンやタブレットなどの携帯端末を通じて、ユーザの位置や検索に応じて情報を提示する仕組みを提供し、平成25年度中に実証実験を行うことを目標としていた。情報提供に際しては、単に端末のディスプレイ上に提示するだけでなく、端末からの音声案内での実現も目指す。実証実験の成果に基づき、実サービスとしての運用の検討を予定していた。

○事業環境の変化
 NPO Lisra では、本事業を申請した時点で、自己負担 25万、助成 100万での事業実施の予定で活動を進めていた。しかし、この限られた予算では、十分なデータ収集・システム開発が困難であることは予想できていたため、他の助成等の検討を進めていた。
 本事業の実施中の平成25年3月に、総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)の公募が始まった。この公募の中には「地域ICT振興型研究開発」というプログラムがある。これは、「ICTの利活用によって地域貢献や地域社会の活性化を図るために、地域に密着した大学や、地域の中小・中研企業等が提案する研究開発課題に対して研究開発を委託する」という枠組みである。日本財団からの本助成「外出困難者を支援する屋内位置情報サービスの構築」をより拡大した形で、また、名古屋大学との連携を行う形での提案を検討し、障害者や高齢者・妊婦といった社会的弱者だけでなく、一般の方も対象としたシステムとしての提案検討を進めた。
検討の結果、名古屋大学を代表機関とし、本NPOも参画する形で「スマートステーションを実現する次世代屋内位置情報サービスの研究開発」の提案を平成25年4月に行った。本提案は、本事業を包含し、より拡大する形の提案となっている。6月にヒアリングが行われ、8月に無事に採択が確定した。SCOPEの地域ICT振興型のプログラムでは、平成27年3月までの1年6か月が実施期間であり、予算は最大2年間で2千万円である。本事業が平成26年3月までの実施であり、SCOPEの事業が平成27年3月までとなっている。そのため、当初の予定通り平成26年3月に成果を出すことを目的としての本予算を使用すると、全体の予算規模から中途半端で部分的な成果となってしまうことが予想される。そこで、本事業での支援を我々は最大限に有効活用させて頂くこととし、最終的な成果としては平成27年3月のSCOPE事業のとりまとめと同時に出すこととした。
 以下の本事業の成果報告では、本事業での支援予算と、本NPOが実施したSCOPEでの研究開発活動の中間状況を報告する。平成27年3月にあらためて、最終的な成果を報告させていただきたい。

○事業内容
本事業では、以下の6項目を実施する予定であった。

(1) 必要な屋内位置情報の検討と収集先の確認
(2) データ収集ツールの構築
(3) 名古屋駅におけるデータ収集
(4) 屋内位置推定システムの構築
(5) 情報提示ツールの構築
(6) 実証実験

他の予算が無い状況では、本NPO単独での実施を行う予定であった。しかしSCOPEの予算が獲得できており、国際標準との連携なども含めた実施を考えている。そこで、本事業では上記の項目の中で、(6)の実証実験は、SCOPEとの連携を行うことし、平成26年11月からの実施を予定している。他の項目についても、最終版を構築するのではなくSCOPE事業と連携した形での実施を行っている。

以下では、本年度実施した(1)~(5)の各項目について順に述べていく。


○各実施項目についての目標と実施内容

(1)必要な屋内位置情報の検討と収集先の確認
 障害者や高齢者、妊婦などのユーザにおいて、実際にどのような情報が必要とされるのかの調査・検討と、情報をどのように収集すればよいか、収集先の検討を行う必要がある。今回は名古屋駅をターゲットとし、関連事業者への許可の依頼を進めた。
 まず、名古屋駅には5つの鉄道事業者が存在する。
 鉄道事業者:
1. 名古屋市交通局
2. JR東海
3. 名古屋鉄道
4. 近畿鉄道
5. 名古屋臨界高速鉄道(あおなみ線)

これらのすべての事業者に対し、本事業の目的等を説明する機会を設け、データ収集への協力依頼を行った。
また、以下の地下街事業者に対し本事業の目的等を説明する機会を設け、データ収集への協力依頼を行った。
1. ユニモール
2. サンロード

 また、収集するデータとしては、以下の情報を定めた。データ形式としてはLoD(Linked OpenData)を採用した。
  ・店舗名称、電話番号
  ・店舗営業時間
  ・店舗場所、カテゴリ
  ・メニュー情報(メニュー種別・名称・価格)

(2)データ収集ツールの構築
 ボランティアによって簡易に(1)で定めた様々な情報を収集する仕組みを検討し、プロトタイプの検討をしている。また、データ収集は、当初は、Web等を中心とした収集を行った。将来は、各地でボランティアがデータ登録をするだけで、情報システムとして利用できる仕組みを目指す。

(3)名古屋駅におけるデータ収集
  (2)で構築したプロトタイプを用いて、名古屋駅およびその周辺店舗(地下街含む)でのデータ収集を行う予定であったが、プロトタイプの開発を先延ばしし、まずは、Web等を通じてのデータ収集を行った。継続的にデータを更新する手法についても検討を進めている。
 結果として、350を超える店舗情報と、500を超えるメニュー情報を収集することができた。

(4)屋内位置推定システムの構築
 名古屋大学で開発された技術を用いて、屋内や地下においても、簡便に位置を推定し、携帯端末で利用できるシステムを構築した。具体的には、無線LAN, 加速度センサ, ジャイロセンサに加え,残留磁気を用いて位置を測定する手法を開発した。我々はこれをマルチセンサ屋内位置推定手法と呼ぶ。
屋内の測位では、現時点で単一の技術で十分な精度を出す方法論は存在しない。そこで、何らかの融合技術が必要となる。この手法では、スマートフォンが持つセンサを可能な限り活用するため、加速度・角速度・磁気の各センサ、無線LANの全てを用いた測位を実現している。この手法では、まず、ユーザが装着したり保持したりしているスマートフォンの姿勢推定を行う。これにより、スマートフォンに固定されたセンサの座標系から、世界座標へとユーザの動きを変換できる。姿勢推定は、重力方向推定と、角速度の積分による回転角推定のカルマンフィルタによる統合により実現されている。ここからのマルチセンサ位置推定手法の各ステップを説明する。次に、加速度信号を用いてステップ検知を行い、事前に与えた推定歩幅を用いて速さ推定を行う。さらに、姿勢推定の結果から進行方向の推定を行う。次に、事前に測定した磁気情報、及びWiFi電波強度情報と、空間の地図情報と、進行方向推定の結果をパーティクルフィルタを用いて統合する。各パーティクルを進行方向推定と速さに従って移動させ、磁気・WiFi電波強度も含めてパーティクルの尤度を更新する。これによって、尤度の高いパーティクルを選択し、次のステップに進む。名古屋大学のIB電子情報館の1F,2F で本手法を評価したところ平均誤差3m程度の測位が実現できた。これは、屋内での店舗案内等を行うための精度としては十分である。

(5)情報提示ツールの構築
 (3)で集められたデータを、ユーザの要望に応じて適切に検索・提示する仕組みを構築した。必要に応じて、サーバ上のデータをクライアントにダウンロードして利用し、常時接続を必要としない仕組みとして実現した。

(6) 実証実験
 名古屋駅にて、対象となる(もしくは、対象者のことを良く知っている)ユーザをターゲットに実証実験の実施を検討している。当初は平成26年2月ごろ実施を予定していたが、SCOPE事業と同時に実施することとして、平成26年11月からの実施を予定している。

○まとめ
以上、本事業では、当初とは実施環境は異なるが、他事業との連携を含め、より効果が高い形での実施を進めている。障害者や高齢者、妊婦が外出した際、必要な情報が十分に提供される方になることを目指している。まだ、十分に収集できていないが、車椅子で入れるトイレや、スロープの有無、エレベータ、禁煙情報など、ユーザと場所に応じて適切な情報の収集を進める。
また、本事業では、明示していなかったが、屋内空間の地図の構築を進め、階段、スロープといった情報の提供だけでなく、屋内ナビゲーションの実現も目指している。

以上

助成機関

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