事業成果物名

2021年度 海洋酸性化適応プロジェクR3報告書

団体名

事業成果物概要

岡山県備前市日生町地先(以下、日生)および宮城県南三陸町志津川湾(以下、志津川)では2020年6月~2021年12月まで約1年半、広島県廿日市市地先(以下、廿日市)では2021年6月~12月の約半年間の調査と観測の結果、3つの海域すべてにおいて、カキ浮遊幼生が悪影響を受けると世界的に認識されている酸性化レベル(Ωarag = 1.5以下)に短期間ながら達する現象が複数回にわたって確認された。「人為起源CO2による酸性化」は日本の沿岸全体で進行していることが過去の研究(Ishizu et al. 2015等)により明らかになっているが、これに加えて、「現在や過去の水質汚染に起因する酸性化」や「陸水の影響による短期的なpH変動」が、今回観測された短期の酸性化現象を引き起こしていると考えられる。2020及び2021年度に、備前市日生町地先において、カキ浮遊幼生の出現期間を中心に、カキ浮遊幼生が悪影響を受ける酸性化レベルに達していた期間を含め、広範囲にわたって継続的かつ高頻度にカキ浮遊幼生の観測を実施したが、異常形態のカキ浮遊幼生は1個体も確認されず、斃死などの直接的な被害は確認されなかった。南三陸町においても同様の結果であった。また、廿日市においては、カキ浮遊幼生の観測は実施していないものの、採苗期間中に酸性化レベルが影響の出る程度に低下していたにもかかわらず、採苗実績は良好であった。また、現在の廿日市の観測点は、広島湾の状況を代表するデータではないことも重要な視点である。上記のことから、カキ浮遊幼生が悪影響を受ける酸性化レベルになっていたことが確認されたものの、少なくとも現時点においては、漁業に被害を及ぼすまでには至っていないと判断された。この要因には次のことが考えられた。① 悪影響を受ける酸性化レベルに達した時期または海域が、採苗時期または採苗場所と合致しなかった。② カキ浮遊幼生は塩分の低下により遊泳能力が下がり沈降することが知られている。カキ浮遊幼生が表層低塩分水の下に移動することにより、その結果として酸性化水を忌避した可能性がある。③ カキ浮遊幼生が悪影響を受けると世界的に認識されている酸性化レベル(Ωarag = 1.5以下)は、アメリカ西岸において検証され用いられている閾値であり、水温や塩分等、海洋環境が異なる我が国沿岸に適合しない可能性が、本プロジェクトの観測結果から示唆された。また、我が国の沿岸環境、我が国のマガキに適した閾値として、その見直しが必要である可能性がある。また、海洋物理・生物化学統合モデルCROCO (Jullien et al., 2019)を用いて、現在再現と将来予測を行った。将来予測はRCP(代表的濃度経路)8.5(高位参照)シナリオとRCP2.6(低位安定化)シナリオに基づいて今世紀半ばと今世紀末について行った。今世紀末の酸性化指標はRCP8.5シナリオでは危険水準に達する頻度と強度が上昇することが示された。一方、RCP2.6シナリオでは危険水準を回避できると予測された。以上より、酸性化に対応するためには、緩和策としてCO₂排出の大幅削減を行った上で、地域の海洋酸性化の進行度合いに応じた段階的な適応策の導入が必要と結論付けられた。


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報告書

事業成果物

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2021年度 海洋酸性化適応プロジェクトR3報告書

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