事業成果物名

2016年度 船舶関係諸基準に関する調査研究

団体名

事業成果物概要

成果の概要

a) ガス燃料船・新液化ガス運搬船基準の策定
近年、従来から使用されている重油よりも燃焼時のNOxとSOx排出量が少ない液化天然ガス(LNG)やメタノール/エタノールを燃料とした船舶が国際的に着目されている。この低引火点燃料を使用する船舶を実用化するためには十分な安全性の検討及びそれに基づく国際的安全基準の策定が必要不可欠であるところ、2015年6月に開催された第95回海上安全委員会(MSC95)にて、天然ガスを燃料とした船舶の安全基準(IGFコード)が採択された。また、現在、天然ガス以外の燃料を使用する船舶の安全性に関し、貨物運送小委員会(CCC)の会合及びE-mailベースでの検討(CG)が行われている。本調査研究プロジェクトにおいては、IGFコードの規定内容が船舶構造・設備へ与える影響を調査し、対応案を関係業界と検討し、IGFコードに反映されるよう努めた。
また、現在、液化水素運搬船の基準は定められておらず、我が国において液化水素運搬船を設計・建造するにあたっては安全性の評価・検討を行い、主管庁として承認を行う必要がある。当該評価・検討の第一段階として「運送に関わる旗国及び港湾当局による三国間(日豪間運送の場合は、第三国の排他的経済水域を通航しないことから、日本と豪州の二国間)の合意に基づくIGCコードの特別承認」に基づくSOLAS条約適合化について検討を行うことが適当であることから、液化水素運搬船基準の検討のためのWGを設置し、特別承認のための安全基準の検討を行った。本調査研究での検討結果を踏まえ、我が国と豪州と共同で提案していた液化水素運搬船に関する暫定勧告案が2016年9月に開催されたCCC3及び同年11月に開催された第98回海上安全委員会(MSC98)において承認された。

b) 目標指向型復原性基準の策定
IMO船舶設計・建造小委員会(SDC)おいて、波浪等の影響を考慮した第二世代非損傷時復原性基準の策定のための議論が行われている。第二世代非損傷時復原性基準の策定にあたって、ブローチング、パラメトリック横揺れ、デッドシップ状態、復原力喪失及び過大加速度の5つの危険モードについて基準の策定を行うことが合意されている。
第二世代非損傷時復原性基準の策定のためのCG(コレスポンデンスグループ)のコーディネーターを日本が継続的に担当しており、本基準を合理的なものとするべくCG及びSDCでの議論をリードしている。
我が国意見の反映を図るため、各種基準及びそれらの合格判定基準値策定のための試計算並びに模型実験、加えて第二世代非損傷時復原性基準において基準を満足できない船舶に導入が予定されている運航制限及び操船ガイダンスの技術的検討を調査研究として実施した。また、IMOでの当該事項の審議への貢献及び対応として、非損傷時復原性CG(ISCG)の報告等に係る提案文書の作成を行った。
また損傷時復原性基準に関し、海上安全委員会(MSC)において、旅客船の損傷時復原性基準の向上について審議が行われていたことから、我が国で建造される旅客船への影響を考慮した合理的な基準をするべく検討を行い、その結果を含んだ提案文書を2016年5月に開催された第96回海上安全委員会(MSC96)及び同年11月に開催された第97回海上安全委員会(MSC97)へ提出した。

c) e-navigation 戦略の実施に伴う関連基準等の検討
IMOでは、2014年11月に開催された第94回 海上安全委員会(MSC94)において「e-navigation戦略実施計画(Strategy Implementation Plan:SIP)」が採択され、2015~2019年の5ヵ年でe-navigation実施に伴うSOLAS条約、関連規則、ガイドライン等の作成・見直しが行われる予定となっている。
IMOにおいて、SIPに沿った条約、規則等の見直しの審議に積極的に参画し、業界調整を行いながら、我が国に有利な方向で検討を進めるとともに、世界各国におけるe-navigation関連の各種研究開発プロジェクトに関する情報収集及び我が国における取り組みに関する情報提供を行った。また、e-navigation戦略実施計画の主要課題の一つとして挙げられている「船上における航海計器と人間のインターフェース」の改善を目指し、船長・航海士に対してアンケート調査を行い、操作上及び利便性の改善が必要と思われる航海計器及びその原因を特定し、IMOにおける審議で提案すべき事項を取りまとめた。

d) GMDSSの見直し及び近代化に関する検討
IMOでは、GMDSS(Global Maritime Distress and Safety System:海上における遭難及び安全に関する世界的な制度)の維持及び安全性の向上を目的として、同システムの見直し・近代化の検討が進められている。これを受けて、IMO及びIMO/ITU合同専門家会合における関連審議の動向を的確に把握するとともに、関連議題について包括的に議論し、国内意見の集約及び調整を実施した。また、将来GMDSS用の機器として、IMOにおいて採用が見込まれているNAVDAT(Navigational Data)について、研究開発状況、技術的課題、関連国際規格、関連特許の取得状況及びコスト等について調査を実施した。併せて、信頼性の検証のため、NAVDATの受信範囲に関する分析を行い、その結果を含んだ提案文書を2017年3月に開催された第4回航行安全・無線通信・捜索救助小委員会(NCSR4)へ提出した。

e) 海事におけるサイバーセキュリティ対策の検討
世界的な情報技術の発達に伴い、船舶、港湾、陸上施設など様々な場面においてサイバーシステムへの接続及び依存が進み、システムデータへの不正アクセス等に起因する航行安全侵害、貿易犯罪等の様々なリスクが懸念されている。この状況を踏まえ、IMOでは、海事セクターのサイバーセキュリティに関する審議が進められている。 2016年に開催された第96回 海上安全委員会(MSC96) において、海事サイバーリスクアセスメントの暫定ガイドラインが合意され、ガイドラインの利用及びそれに伴う問題点の報告等が推奨されている。
本調査研究プロジェクトにおいては、我が国の知見及び意向を反映させるためにIMOにおける審議動向を的確に把握するとともに、国内及び国外のサイバーセキュリティ対応状況をヒアリングや文献調査により整理・分析した。また、我が国の海事産業のサイバーセキュリティ対策状況や航海・通信機器の利用状況を踏まえた上で、暫定ガイドラインに基づいたリスクアセスメントを実施した。

f) 船体付着生物管理に関する検討
船舶の外板等に付着した生物の移動に伴う海洋環境への影響に関してもIMOで取り上げられ、2011年7月の第2回海洋環境保護委員会(MEPC62)において、船体生物付着管理に関するハード・ソフト双方の要件を盛り込んだ非義務的ガイドラインが採択された。また、2013年5月のMEPC65において、ガイドラインの実施状況、効果を評価するためのプロセスについてガイダンスが採択された。同ガイダンスに従った今後のレビューの結果によっては、ガイドラインの義務化に関する議論が開始される可能性がある。このため、将来予想されるIMOでのガイドライン義務化等に関する議論に備え、我が国海運・造船業界等と協力し、ガイドラインの実効性及び影響評価を実施した。また、先行して船体付着生物管理規制の検討を行っている、米国、オーストラリア及びニュージーランドの検討状況の調査を行い、審議動向の把握をした。

g) 船舶からの大気汚染防止のための基準整備
IMOでは、船舶からの窒素酸化物(NOx)及び硫黄酸化物(SOx)の更なる排出規制強化のため、海洋汚染防止(MARPOL)条約附属書 Ⅵの改正を採択し、段階的にエンジンの性能のみならず燃料油の品質をも規律する一方、規制の目的を達成するための代替措置の適用も容認している。段階的に規制が強化されている当該規制への適合を担保するため、関連基準の整備が急務となっている。また、高緯度(北極圏)の氷雪融解を促進する原因物質と考えられている、国際海運から排出されるブラック・カーボン(BC)について、IMOにおいてその定義、計測方法及び排出抑制方法に関する検討を段階的に行うこととされている。
このような背景を踏まえ、2015年5月のMEPC68において改正されたSOxスクラバに係るガイドラインに関し、実験を通じた排水のpH値分布状態の検証、低pH値の排水による船底塗料への影響の調査等を実施した。また、現在IMO において行われている、国際海運から排出されるブラックカーボンの適切な計測方法の特定に係る検討に関し、候補として挙げられている複数の計測方法を用いたBCの計測を行い、その結果を纏めて2017年1月に開催された第4回汚染防止・対応小委員会(PPR4)に提案文書として提出した。

h) 船舶水中騒音の海洋生物への影響に関する調査研究
生物多様性条約の下に置かれている会議では、船舶等の人為的な騒音が海棲哺乳類等の海洋生物に悪影響を与えていることから対策を講ずべきという意見がでている。これに対して、わが国は因果関係などの科学的知見が十分でないと反論した。その結果、各国に船舶等の人為的な騒音と海棲哺乳類等の海洋生物の関係についての科学的研究の実施が要請された。また、IMOでも2014年4月に船舶の騒音対策に関する非強制ガイドラインが承認されたところ。以前から数値目標の設定を繰り返し主張している国もあるため、IMOでの議論の動向についても引き続き注意を要する。
これらの会議では、船舶を騒音源の一つとして問題視しており、今後の議論の行方次第では、船舶の騒音対策を講ずべきとする方向に議論が発展することが懸念される。このため、今後の議論において対抗するには、船舶の騒音と海棲哺乳類の因果関係などの科学的知見が必要である。
これらの背景から、船舶水中騒音に対する科学的根拠のない規制の導入を回避するため、海洋生物に対する船舶水中騒音の影響について、定量的かつ科学的なデータを取得し、特に、海洋生物が許容できる騒音レベルを明らかにするための調査研究を2015年度より実施している。
今年度の調査研究では、 定期運航船「ははじま丸」を航走させ、別途手配した計測船を用いて同船から発生する水中騒音を計測し、定量化した。また、2月~3月末の期間、父島~母島間を定期運航する「ははじま丸」から発生する水中騒音の計測及び同船に対するザトウクジラの反応行動の観測を実施し、船舶水中騒音に係る科学的データの取得と定量化を行った。

i) 船舶からの温室効果ガス(GHG)削減基準の策定
2011年の第62回海洋環境保護委員会(MEPC62)において、船舶のCO2排出基準に関する船舶設計(EEDI)、省エネ運航計画(SEEMP)から成る技術的・運航的手法の導入に係るMARPOL条約附属書VIの改正案が採択され、2013年1月に発効した。EEDI規制値は、我が国の造船・舶用工業の世界トップレベルの優れた省エネ技術をベースに合意されたものであり、我が国の国際競争力強化に資するため、条約の規定通りの段階的規制の的確な実施が不可欠である。同規制は、MARPOL条約の規定に従い、現行の規制値どおりに実施することの可否の判断のため、技術開発状況のレビューを行うこととなっていることから、規制の的確な実施のため欧米主要国とも連携しつつ、当該レビューを主導する必要がある。また、EEDI規制についてはこれまで我が国が国際的議論を主導してきたところであり、EEDIに関する技術的検討事項(最低出力ガイドライン、海上試運転実施・解析法等)についても、引き続き国際的議論を主導することにより、我が国競争力の確保を図ることが必要である。これらの課題を解決するための方策を検討するとともに、これらを踏まえた提案やMEPC等への対応方針案の策定に資する活動として、本調査研究プロジェクトの下でEEDI、燃料消費実績報告制度等に関し、関係者との協議を通じて検討を行い、MEPC69、MEPC70等の国際会議における我が国対応方針案の検討を行った。その主な成果として、MEPC69において、燃料消費実績報告制度実施のためのMARPOL条約附属書VIの改正案が承認され、MEPC70において採択された。

j) 各国提案の評価及び日本提案のフォローアップ(IMOフォロー)

1) 防火
2016年5月に開催された第96回海上安全委員会(MSC96)及び同年11月に開催された第97回海上安全委員会(MSC97)、並びに2017年2月に開催された第4回船舶設計・建造小委員会(SDC4)及び同年3月に開催された第4回船舶設備小委員会(SSE4)の防火設備関連議題への対応の検討を実施した。

2) 救命
2016年5月に開催された第96回海上安全委員会(MSC96)及び同年11月に開催された第97回海上安全委員会(MSC97)、並びに2017年3月に開催された第4回船舶設備小委員会(SSE4)の救命設備関連議題への対応の検討を実施した。
3) 船上揚貨装置
2017年3月に開催された第4回船舶設備小委員会(SSE4)の船上揚貨装置関連議題への対応を実施した。船上揚貨装置の基準策定のためのCGのコーディネーターを日本が担当したことから、これに関わる調査研究を実施し、CGの結果報告に関するSSE4への提案文書案の作成を行った。

4) 係船設備
2016年1月に開催された第3回船舶設計・建造小委員会(SDC3)で設置された係船設備に関する基準改正のためのCGへの対応、及び2017年2月に開催された第4回船舶設計・建造小委員会(SDC4)のへ係船設備関連議題の対応の検討を実施した。この中で、係船設備関連議題における我が国の懸念事項を示した提案文書案の作成を行った。

5) GBS
2016年11月に開催された第97回海上安全委員会(MSC97)のGBS適合検証ガイドライン改正関連議題への対応の検討を実施した。また、2017年6月に開催される第98回海上安全委員会(MSC98)へ提出する我が国提案文書の検討を実施した。

助成機関

事業成果物種類

報告書

事業成果物

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船体付着生物管理プロジェクト報告書

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ガス燃料線・新液化ガス運搬船プロジェクト報告書

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大気汚染防止基準プロジェクト報告書

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事業成果物名

水中騒音プロジェクト報告書

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目標指向型復原性プロジェクト報告書

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事業成果物名

船舶関係諸基準に関する調査研究

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